1. ホーム
  2. 会報
  3. Alumni Special Interview
  4. 視点 異文化コミュニケーション学部  丸山千歌教授に聞く

Alumni Special Interview

視点

異文化コミュニケーション学部 丸山 千歌教授に聞く
日本語教育と「やさしい日本語」

日本語教育とは、主に日本語を母語としない人に日本語を教えることです。来日する外国人は年々、増加傾向にあり、日本語教育のニーズは高まっています。日本語教育の歴史や特徴、外国人と日本語で話す際に求められる姿勢などについて、異文化コミュニケーション学部の丸山千歌教授に伺いました。


日本語教育の歴史と高まるニーズ

 日本語教育が始まったのは、宣教師が布教のために日本に来るようになった16世紀頃です。第二次世界大戦下では、日本がアジアで覇権を広げる際に、言語政策として日本語教育が行われました。戦後、日本語教育は国語教育と分けて考えられるようになり、現在は「ツールとしての日本語」と位置づけて展開されています。
 高度経済成長期には、外国の政治家や日本を研究する学者が積極的に日本語を学習し、バブル期が近づくと、ビジネスのために日本語を学ぶ外国人が増えました。1983年には、政府が「留学生受入れ10万人計画」を発表。多くの大学で日本語教育プログラムが設けられました。近年では外国人労働者の受け入れ拡大に伴い、日本語教育のニーズはますます高まっています。そうした中、教育の質を保証すべく、「日本語教育機関認定法」と「登録日本語教員」の制度が2024年4月からスタートしました。質の高い日本語教師を増やしていく中で、働く環境の整備は「待ったなし」の状況といわれています。

日本語教育に必要なスキル

 日本語を話すことができれば日本語教師になれるかというと、そうではありません。普段、当たり前に使っている日本語を客観的に分析し、論理的に説明する力が求められます。日本語の授業では、日本人が英語を学ぶ時と同様に、文字、単語、文法などを学んでいきますが、ひらがな、カタカナ、漢字という3種の文字があることは難しさの一つです。
 一方で文法のルールに縛られない表現も教える必要があります。例えば、意思や予定を表現する「つもり」という言葉。「夏休みは帰省するつもりです」と言っても違和感がないのに、「今から何をするつもりですか?」と言うと文法的に間違っていなくても少し否定的なニュアンスに聞こえることがあります。理屈だけでなく、社会でその言葉がどのように使われているか分析して教えることも重要なのです

「やさしい日本語」に学ぶ

 日本語教育の今後を考える上で注目しているのが、弘前大学の佐藤和之名誉教授が中心となって開発した「やさしい日本語」という概念です。1995年の阪神・淡路大震災では、日本にいた多くの外国人も被災しましたが、難し い日本語が障壁となって必要な情報を受け取ることができない人も多数いました。その教訓から、分かりやすい語彙(ごい)やシン プルな文法構造に基づく「やさしい日本語」が作られたのです。例えば、津波が起きた時、「高台に避難してください」よりも高いところに逃げてください」の方が伝わりやすい。外国人だけでなく、子どもや高齢者もすぐに理解できます。「やさしい日本語」は災害をきっかけに誕生しましたが、近年は減災目的に限らず、広い場面で活用されています。日本語教育に活用されることもあり、カリキュラムに取り入れる動きも出ています(※)。広く普及すれば、日本の社会がもっと豊かでインクルーシブになっていくのではないかと期待しています。

※立教大学では、2022年度から「やさしい日本語」の科目を全学共通科目で開講しています。日本語を母語とする学生が「やさしい日本語」を習得できる「社会と日本における多文化主義」、外国人留学生が「やさしい日本語」で学ぶ「多文化共生社会と大学」です。両科目は一体的に授業運営しています。

丸山千歌 異文化コミュニケーション学部学部長・教授

国際基督教大学大学院比較文化研究科博士課程修了。博士(学術)。
横浜国立大学留学生センター准教授を経て、2012年立教大学に着任。
専門分野は日本語教育と社会言語学。
日本語教材研究や日本語教師の養成のための研究、
言語教育における国際連携のための言語教育指標の活用研究などに取り組んでいる。


Page Top