Alumni Special Interview
視点
文学部 加藤 喜之教授に聞く
宗教とグローバル社会
立教大学は、1874年にアメリカ聖公会(注1)の宣教師ウィリアムズ主教が創立し、キリスト教に基づく人間教育を行っています。グローバル化が進む現代社会に、宗教はどのような関わりがあるのか。私たちは宗教といかに向き合うべきか。文学部キリスト教学科の加藤喜之教授に伺いました
キング・ジーザス・インターナショナル・ミニストリーで開催された
「Evangelicals for Trump」キャンペーンイベントで、
ドナルド・トランプ大統領に祈りを捧げる教団指導者たち。
(Photo by Joe Raedle/Getty Images)
消費される宗教
日本人は宗教にあまりなじみがないと思われがちですが、実はそんなことはありません。宗教というと教団があって、教祖がいて、熱心な信者がいる俗世から離れた集団のようなものをイメージするかもしれません。しかし、日本には元々、さまざまな土着の習俗や信仰があります。実際、日本人の多くは初詣に行ったり、お墓参りをしたりと、日本社
会は宗教的な行為であふれています。
一方で、現代的な視点から見ると宗教は確実に廃れてきています。1960年代ごろから新宗教の活動が活発になりましたが、近年は子どもたちに継承されなかったり、信者が高齢化したりして、勢力を落としています。同時
に起こってきたのが、一般市民の消費者化です。例えば、キリスト教信者ではない人がチャペルで結婚式を挙げたり、本来は宗教的な行為であったヨガに取り組んだりと、宗教的要素が商材のように消費されるようになったのです。これは日本だけでなく、欧米のように消費社会が広がっている地域では同様の傾向が見られます。
グローバル化で失われたもの
グローバル化は、消費社会の拡大に拍車をかけています。世界中に大企業が進出し、どこに行っても同じようなショッピングモールやカフェがある状態になっています。それにより各地方にあったはずの伝統や商業のあり方が変わってきました。すると、共同体が育んできたつながりや困った時の助け合いがなくなり、人々はただの一消費者として生きなくてはならなくなる。その結果、自分たちのアイデンティティーが失われてしまうのです。現在、格差拡大や情勢不安が問題となり、特に欧米では不満や絶望を抱えた人々が増えています。彼らの間では、自分たちのアイデンティティーを模索し、取り戻そうとする動きが起きています。その1つが、欧米各地で起きている「キリスト教ナショナリズム」です。彼らはキリスト教を西洋文明の源泉とみなし、政治家たちも「西洋人ならキリスト教徒であるべき、キリスト教文明に生きるならキリスト教を重視しなければならない」と主張して、勢力を拡大しています。このようにグローバル社会で疲弊した層が、宗教やナショナリズムに傾倒するという状況は、日本を含めた世界各地で起きています。
注1 聖公会:英国国教会にルーツをもつキリスト教会を母体として誕生したキリスト教の教派の1つ
批判的視点で宗教を学ぶ
ロシアのウクライナ侵攻やパレスチナ問題にも宗教が少なからず関係しています。国家間の複雑な問題も、宗教を通して見れば少しずつ理解できるかもしれません。国際問題を理解するためにも、カルト宗教などから自身を守るためにも、日本人はもっと宗教について知るべきだと思います。若い時にはさまざまな悩みを抱えがちです。寄り添ってくれる人がいれば、当然、人間の心理として引かれてしまう。
しかし、ある程度の宗教的知識があれば、カルト宗教の教義に対して「伝統的な宗教の教えからかけ離れいる」といった具合に、危険なシグナルに気付けるはずです。宗教の教えをそのまま受け入れるのではなく、それがどのように発展し、人々がどう生活に取り入れてきたのか、政治にどのように利用されてきたのかなどを知り、批判的な視点で考えることが大切なのです。そうした視座を持つ学びこそが、立教の目指すリベラルアーツだと考えます。
宗教は古くから文化や政治の中に密接に根付き、その中でさまざまな歴史が紡がれ、哲学が生まれてきました。本学では全カリ(全学共通科目)において、宗教と社会との関わりをはじめ、歴史、文化、哲学などに関する多彩な科目を設置しています。そうした学びを得ることは、本学の学生が自己理解を深めるうえで1つの手がかりになるのではないでしょうか。
プリンストン神学大学院大学博士課程修了。
東京基督教大学神学部 准教授などを経て、2019年立教大学着任、2024年4月より現職。
ケンブリッジ大学クレア・ホール客員フェローなどを兼任。
宗教改革期以降から近現代にかけての西欧の宗教思想およびキリスト教史を専門とする。
ソーシャル経済メディア「NewsPicks」にて「宗教とグローバル社会」を連載中。