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Alumni Special Interview 

作家 武塙麻衣子さん(平15英)

客室乗務員、英語講師を経て作家に。 独自の筆致で酒場の空気を書き取る 

神奈川県出身。文学部英米文学科卒業。客室乗務員、英語講師を経て、『酒場の君』(書肆侃侃房)にて作家デビュー。講談社『群像』にて『西高東低マンション』、小学館のWebサイト「小説丸」にて『一角通り商店街のこと』を連載中。

武塙麻衣子さん

30歳の頃からライフワークのように楽しんできた一人飲み。その中で出会った思い出深い酒場について綴ったエッセイ集『酒場の君』が話題となっている作家の武塙麻衣子さん。国際線の客室乗務員を経て作家になるという異色の経歴を持つ武塙さんに、お話を伺いました。

学業とサークルで英語力を磨いた立教時代

 私の母は立教大学文学部英米文学科を卒業し、客室乗務員になりました。「大学も仕事もとても楽しかった」という話を母からずっと聞かされてきたため、疑問も持たずにその後を追ってきました。恥ずかしながら、30歳頃まで「自分はこれがやりたい」という思いは特になかったんです。
 大学入学後は英米文学科に在籍しながら、英語上級者向けの「インテンシブコース」で学びました。当時の社会問題について英語でディスカッションを行うなど、先進的なカリキュラムが刺激的でした。英米文学科の学びで印象に残っているのは、オーストラリラリア出身の先生と、先住民の神話や近代の小説を読み解いていく授業がとにかく面白かったですね。同じ授業を履修していた同級生と卒業旅行でタスマニアに行った際には、先生も合流してくれました。
 サークルはESSに所属。英語劇を行うドラマ部門で活動していたのですが、想像以上にハードでした。秋に開催される大会に向けて、3年間ほぼ休みなく活動していた記憶があります。そんな学生生活のおかげで英語力がずいぶん鍛えられました。

コロナ禍の間に作ったZINEがターニングポイントに

 大学卒業後は、航空会社の客室乗務員として勤務。国際線を担当し、世界の主要な地域はひと通り回ったと思います。しかし、30歳を前にして新しいことに挑戦してみたいと考え、6年で退社しました。
 その後しばらく、子ども向けの英語教室の講師をしていたのですが、客室乗務員の時に比べると時間に余裕ができたこともあり、文章を書くようになりました。書いていたのは主に日記です。その日あった出来事や観た映画の感想などを書き綴っていました。
 そうした日々の中で、コロナ禍が始まりました。さらに空き時間が増えたため、この機会に何か形として残そうと作ったのが、日記をまとめたZINE(個人や少人数の有志で発行する自主的な出版物)です。簡素なものでしたが、ZINEを取り扱う書店に置いてもらえることになり、何冊か発刊しました。しかし、次第に日記をZINEとして公開することに抵抗を感じるように。コロナ禍の間は、夫や猫の話など主に家の中であった出来事を書いていればよかったのですが、コロナ禍が落ち着き、人と会えるようになると別の登場人物が出てくるようになったからです。プライバシーの問題もあるし、書けることが限られてしまう。
 そこで考えついたのが、自分が訪ねた酒場について書くということでした。酒場には一人で行けますし、お酒や料理のことも題材になる。そこで『酒場の君』というZINEを2冊作ったところ、出版社の方の目に留まり、単行本として刊行されることになりました。自分の書いた文章が本という形になって世に出たことが、とてもうれしかったですね。他にも文芸誌などで小説の連載をさせていただくようになり、作家としての活動が本格化したのです。

凝り固まらずに生きていけばいつまでも自由でいられる

 一人飲みをするようになったのは、30歳になった頃からです。一人でお店に入る時に緊張しないかとよく聞かれますが、平気です。客室乗務員をしていた時、渡航先で長時間フリーになることがあり、そんな時はカメラを持って外に出て、犬とその飼い主の写真を撮ることをライフワークにしていたんです。それを繰り返すうちに、人に話しかけたり、知らない場所に行ったりすることに抵抗がなくなりました。
 飲むのも食べるのも好きですが、お酒や料理に詳しいわけではありません。ですから、『酒場の君』では無理に料理の説明を書いたりせず、酒場の雰囲気やそこで交わされた何気ない会話など、「場所を書き取る」ことを意識しました。また、私はオノマトペが大好きなので、酒場で聞こえるさまざまな音をどう文字に落とし込むかを常に考えています。少し不思議な響きのオノマトペが出てくるのは、自分の文章の特徴かもしれません。
 客室乗務員、英語講師、作家と職業が変わってきましたが、その時々で自分ができること、やりたいことをやっていたら今の自分に行き着いた、という感覚です。興味のあることは何をやってもいいと考えられるようになったのは、立教での自由な学びがあったからだと思います。社会に出たら責任は増えますが、自由な時間がそこで終わるわけではありません。私自身、40歳を過ぎて作家という新しい人生が開けるとは思ってもみませんでした。大学を卒業しても凝り固まらずに生きていけば、ずっと自由なままでいられるはずです。

『酒場の君』
書肆侃侃房/2024年9月発刊
横浜、野毛、鶴見、川崎、西荻窪、渋谷、武蔵小杉、湯島、早稲田、そして長野、名古屋、京都̶。
忘れえぬ酒場40軒の思い出。
私家版ながら大きな話題を呼んだ『酒場の君』が書き下ろしを加えてついに書籍化!
文筆家・武塙麻衣子待望のデビュー単行本となるエッセイ集。

● 取材後記

 自主制作した「酒場の君」が話題、作家デビューされた武塙さん。びっしり小さい文字で書いたメモとともに、誠実に取材に向かってくださいました。印象的だったのは「オノマトペが好き」というお話。ビールを注ぐ音が聴こえてくるような、臨場感ある文章の理由を垣間見ました。ぜひ皆さんも読んでみてください。

(会報委員 木田明理 平15日)

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取材後の1枚。武塙氏と会報委員(木田氏)


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