1. ホーム
  2. 会報
  3. Alumni Special Interview
  4. 映画監督・脚本家 鶴岡慧子さん(平24映)インタビュー

Alumni Special Interview 

映画監督・脚本家
鶴岡 慧子さん(平24映)

道のただなかを歩み答えを考え続けながら映画を撮る。

さん

5月11日に執り行われた立教学院創立150周年記念式典で、記念映画『道のただなか』が上映 されました。作品を手掛けたのは、若手実力派の映画監督として評価を高めている鶴岡慧子さん。一から映画制作を学んだ立 教時代の思い出や、『道のただなか』に込めた思い、映画を作る面白さや難しさなどを伺いました。

入学直後に実感した映画作りの難しさと面白さ

 幼い頃から映画が好きで、小学生の時にはすでに「映画監督になりたい」と将来の夢を語っていました。立教大学に映像制作を学べる学科ができたと知って受験し、現代心理学部映像身体学科の3期生として入学。機材や設備に惹かれて志望しましたが、これまで数多くの映画監督を輩出してきた大学だと入学してから知り、映画を追究するのにぴったりな場だと実感したのを覚えています。
 映画作りの理論やテクニック、物事を見る力を養うための授業はどれも印象的で新鮮でした。中でも4年間の学びの起点となったのが、1年次に受講した万田邦敏先生のワークショップです。数人でチームを組み短編映画を撮る授業で、「物語のどこかに『階段』を入れること」「1人1シーンは演出すること」といった条件が課せられまし た。入学して間もない、映画作りの基礎も分からない中で、仲間と共にどうにか作品を完成させた経験を通して、作り手側の喜びや面白さを体感しました。万田先生は脚本や芝居を褒めてくださったのですが、私が演出したシーンに対しては「ひどいね」と一言(笑)。チーム全体への評価は高かったため、うれしい反面とても悔しく、「もっと作りたい!」とモチベーションが上がったきっかけにもなりました。

どんなに撮っても映画は自分から逃げていく正解の見つからない営み

 理論と実践を積み重ねながら映像制作について理解を深めた4年間でしたが、万田先生から学んだのは、「私たちは映画のことを何一つ分かっていない」という姿勢を保ち続ける大切さです。映画を作ることは途方もない営みで、そこに描き出される「人間」も複雑で正解のない存在である。安易に答えを出して分かった気になって撮ったものは、果たして映画といえるのだろうか――。そうした問いと真摯に向き合い、考え続けることが、映画に携わる者として必要不可欠なスタンスだと思っています。万田先生に教わった意識の持ち方は、今後も映画と対峙するための原動力になるでしょう。
 大学卒業後は東京藝術大学大学院に進学し、立教出身の黒沢清先生(昭55産)のゼミに入りました。黒沢先生は学生のことを 一人の作家として対等に接してくださり、「君たちは僕のライバルだ」と言いながら、最近観た映画や自身の作品について語ってくださいました。万田先生と共通しているのは、絶対に答えを教えてくれないところ。「メソッドやテクニックは伝授しない。そんなもの、あるのかどうかも分からない」と常々言われ、自分なりの映画作りを模索していきました。

創立者ウィリアムズの生き方を表現した記念映画『道のただなか』

 立教学院創立150周年を記念した映画『道のただなか』は、ブックレット『立教の創立者C・M・ウィリアムズの生涯』をベースに構想を練った物語です。立教大学で過ごす主人公がブックレットを読んだことをきっかけに、ウィリアムズの足跡をたどりながら、その生き方を知っていくというシナリオ。実は私も大学入学時にブックレットを手にしていたのですが、恥ずかしながらほとんど読んでいませんでした。改めてウィリアムズの生涯を知り、世の中を平和にするという使命の下、キリスト教徒としての正しさを貫いた人物だったんだと、大きな感銘を受けました。映画制作を機に、彼が歩んだ道や教えが立教そのものであると実感できたのは、すごく幸運だったと思います。
 脚本執筆時には、西原総長から聖公会の「Via Media(中道)」という重要な考え方について教えていただきました。私たちは道のただなかにいて、安易にどちら側にも寄らず、解釈し続けることが大切なんだと。映像身 体学科で学んだ、安易に答えを出さずに考え続ける姿勢とも重なって強く共感しましたし、「Via Media」を守る立教での経 験が下地となって、今自分は映画を撮っているのだと自覚することができました。

平和について考え行動を起こせる大学であってほしい

  映画の中でウィリアムズは主人公に向かって、「あなたは決して戦争に出てはいけません」と語りかけます。これは実際にウィリアムズの教え子だった人物に対して伝えられたメッセージです。いろいろなものに忖度して「戦争に行ってはいけない」と言いづらい現代に、ウィリアムズの姿を借りて若い人たちへ伝えたいと思い、物語の終盤にこのシーンを入れました。「ViaMedia」を大切にする一方で、絶対的に間違っていることについては、はっきりと「NO」と言えるのが立教の強さです。殺伐とした世界の中で、立教はどのようなアクションを起こせるか。ウィリアムズの教えを常に反すうしながら、平和を目指して歩み続けてほしいと考えています。
 在学当時は映画のことばかり考えており、ウィリアムズの教えや大学全体の理念などを意識できていませんでした。改めて振り返ってみると、立教には他の人を蹴落とすようなガツガツした人はおらず、優しさのある人が多かったように思います。競争に勝つことが求められる時代では、得をする性格ではないのかもしれませんが、迷いなく 他者に寄り添うことができる姿勢を大切にすべき瞬間もあります。そうした校風が自分の肌にも合っていたと感じます。

さん
映画制作中のオフショット。主演の渡邉甚平氏と

楽しく、じっくりと映画を作り続けたい

 今後の目標は、いつまでも映画を作り続けること。それに尽きます。たくさんの作品を手掛けたいというわけではなく、映画を撮ることに長く携わっていたいと思っています。さらに言えば、万田先生や黒沢先生が「面白い」と言ってくださるような作品を作りたいですが、なかなか難しそうです(笑)。これからも伸び伸びと楽しく、スタッフそれぞれのクリエイティビティを融合させながら、映画作りに励んでいきます。
 最後に、映像身体学科の後輩たちへ。他に類を見ない環境で、ユニークな学びに溺れてください。正解がない中で答えを探しながら、世間に迎合することなく自分らしさを貫き通した先に、きっと面白い景色が広がっているはずです。 

文/WAVE 写真/小田雅樹

さん
鶴岡 慧子(つるおか けいこ)
映画監督・脚本家。神戸芸術工科大学メディア芸術学科助教。
長野県生まれ。2012年立教大学現代心理学部映像身体学科卒業、
2014年東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻監督領域修了。
代表作に、卒業制作『くじらのまち』
(2012年/第34回ぴあフィルムフェスティバルPFFアワード2012グランプリ・ジェムストーン賞〈日活賞〉)や
『バカ塗りの娘』(2023年/第74回芸術選奨文部科学大臣新人賞)など。

Page Top