創立150周年記念座談会
立教のリベラルアーツ教育
立教大学には創立以来、一貫してリベラルアーツ教育に取り組んできた歴史があります。学問分野の枠組みにとらわれず、多様な知の世界を横断的に体験する立教のリベラルアーツ教育は、どのように確立され、学ぶ者に何をもたらすのか。西原総長と本学でリベラルアーツ教育に深く関わってきた教員が語り合いました。
リベラルアーツとは何か
佐々木 リベラルアーツは、古代ギリシアで生まれ、中世ヨーロッパの大学で導入されていた「自由七科」文法、修辞学、論理学、算術、幾何学、天文学、音楽)という科目群に起源を持ちます。初期の大学には「神学」「医学」「法学」という3つの専門分野があり、専門教育に進む前に自由七科を共通の知識基盤として身に付けていました。「自由」が付く理由は諸説ありますが、自分の家柄や地位などから解放され、自由人として生きるために教養を磨くことが必要とされていたのだと考えられています。こうして根付いたリベラルアーツ教育は、時代とともに発展しながら近現代まで受け継がれてきました。
西原 あらゆる縛りから解き放たれて自由になるための技法がリベラルアーツですが、「職業訓練ではない」ということが重要です。立教の源泉から継承しているリベラルアーツ教育は、職業の選択に資する以上に人格の陶冶(とうや)に重きを置いているのです。
立教のリベラルアーツ教育の特徴
松下 今から15年前、立教大学に着任した時に「専門性に立つ教養人」という言葉に引かれました。驚いたのが、他学部の授業を履修する垣根の低さです。それを実現している全カリ(全学共通科目)(※)は、リベラルアーツ教育を大切にしてきた立教の姿勢を体現するものと感じました。理学部の教員として、仮説と検証を繰り返して真理に近づいていくのが研究の魅力だと考えています。このような姿勢を身に付けることがまさに、リベラルアーツ教育に立脚したサイエンス教育のあり方ではないでしょうか。
加藤 私の専門分野である美術は自由七科に含まれていませんが、リベラルアーツ(Liberal Arts)にアートという言葉が入っています。アートの語源はラテン語の「アルス」で、技術や技能という意味を持っています。これは1つの科目に収まるようなものではなく、自由人になるために、さまざまな知の分野を結びつけ、人間性を高める技術(アートの力)だと考えています。私自身も立教に着任後、本学のリベラルアーツ教育に触れる中で、この幅広い見方が培われた気がします。社会はさまざまなもので構成されていて、多彩な学びや経験が人を作り上げることを実感しました。私も美術史の教員として、全カリの授業を通じて他学部の学生にも美術作品との出合いを提供し、人生を豊かに彩るサポートをしたいと思っています。
立教のリベラルアーツ教育と学生への期待
佐々木 リベラルアーツ教育を大切にしてきた立教の歴史を、学生の皆さんがよく理解して学んでいただければ、うれしく思います。新しい発見をする時はロジカルではないことがよくあります。直感、インスピレーションを養う科目にも力を入れて、クリエイティブな発想力を磨いてほしいですね。
松下 社会に貢献し、人の痛みに寄り添える人間になってほしいと思います。科学には理詰めではないクリエ
イティブな発想が必要で、真理は常に美しさを伴っています。こうした感覚を、サイエンスを通して磨いてほしいですね。
加藤 人の痛みに寄り添うという精神的・人間的な成長が大切で、そのためには机上で学ぶ授業と実感を伴う経験の両方が重要です。そのようなプログラムが立教には豊かにありますので、生きていく上での学びにつながればと思っています。
西原 最近、効率よく教養を身に付ける「ファスト教養」というものが流行っています。しかし、教育とは時間のかかる“手仕事”なのです。これからも立教は、リベラルアーツ教育を基本に据えながら、専門性に立った教養人を育む大学であり続けたいと思っています。
※全カリ(全学共通科目):学生の学びを「全学で支える」という理念のもとに構築された「全カリ運営センター」が運営する、全学部の学生が履修できる「全学共通科目」。言語系科目と総合系科目で構成される。「全カリ」は、「カリキュラム」であると同時に、「運営組織」であり、「教育革新の運動」であるということができる。
理学部教授/教務部長 松下信之 |
文学部教授 加藤磨珠枝 |
立教大学 総長 西原 廉太 |
名誉教授/元・全学共通 カリキュラム運営センター部長 佐々木 一也 |
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1989年京都大学大学院理学研究科修了。東京大学大学院総合文化研究科准教授などを経て、2009年立教大学理学部化学科に着任。専門分野は錯体化学・固体物性化学 | 2000年東京藝術大学美術研究科博士課程修了。2010年立教大学文学部キリスト教学科に着任。2014年より現職。専門分野は西洋美術史 キリスト教美術など | 文学部キリスト教学科教授。専門分野は、アングリカニズム、エキュメニズム、組織神学、現代神学。キリスト教学校教育同盟第28代理事長 | 1979年東京大学大学院哲学専攻博士課程単位取得退学。1989年立教大学一般教育部専任講師に着任。文学部教育学科教授を経て2006年に文学科文芸・思想専修を立ち上げる。専門分野は哲学 |