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Alumni Special Interview 

チロルチョコ株式会社 代表取締役社長
松尾 裕二さん(平21経)

「バランス型」の4代目社長としてお客さまからも社員からも愛される会社を目指す。

松尾 裕二さん

手ごろな価格と豊富な種類で60年以上にわたり多くの人に親しまれているチロルチョコ。その企画・販売を手がけるチロルチョコ株式会社の4代目社長に30代の若さで就任した松尾裕二さんに、立教時代の記憶や仕事にかける思いについて伺いました。

ストリートダンスに明け暮れた学生時代

 私の曽祖父が1903年に福岡県で松尾商店を創業し、その後チロルチョコの製造会社である松尾製菓株式会社を設立し、駄菓子メーカーとしてスタートしました。チロルチョコの販売を開始したのは62年。60年以上の歴史があるロングセラー商品ということになります。その後、父である前社長がコンビニエンスストアでの販売ルートを構築。2003年には「きなこもち」味が大ヒットし、チロルチョコの名前は全国的に知られることとなりました。
 その頃、私は立教新座高校に通っていました。私の高校進学を機に、家族で福岡から上京してきたのです。小中学校ではサッカーに熱中しており、市の選抜に選ばれたことも。しかし田舎の出身だったので、上京したら金髪にしたりピアスを開けたりしたくなったのです(笑)。それだと普通の部活に入れない。新しいことに挑戦したいと思っていたところ、ストリートダンスのスクールを見つけて通い始めました。本当に楽しくて、大学を卒業するまで熱中していました。

後継者指名を受けたことで気持ちが引き締まる

 小学生のころから、いずれ父の会社に入ることになるだろうと勝手に思っていました。就職活動では他社で経験を積み、経営に役に立つスキルを身に付けたいと考え、経営コンサルティング会社を志望。入社後、1年目は社労士のもとで給与計算の代行業務などをこなし、2年目には簿記検定2級を取得しました。仕事に面白さを感じるようになっていた一方、その経験が父の会社で役立つのか疑問に感じ始めていました。ちょうどそんな時期に、妻と の間に子どもを授かり、チロルチョコ株式会社に入って腰を据えて頑張ることを決めたのです。入社後まもなく全社大会が開かれたのですが、唐突に父から壇上に呼ばれ、「彼がこの会社の後継ぎです」と紹介されました。事前に何の相談もなかったので、本当に驚きましたが、一気に気持ちが引き締まりました。

冷静な対応が評価されたSNSの炎上対策

 入社後は開発、製造、販売の部署をひと通り経験しました。初めて会社に貢献できたと感じたのは入社から3年目、チロルチョコから芋虫が出てきたというSNSの投稿で炎上した時です。当時、私はSNSチームを立ち上げて情報の発信・管理を行っていたのですが、そうした投稿があるという情報が入って、すぐにチームで対策を練りました。そして、私が文面を考え「この商品の最終出荷日は半年前で、芋虫は大きさから推定すると生まれて30〜40日である」という内容と、「出荷後に家庭内で虫が混入することがある」という旨が記載された日本チョコレート・ココア協会のウェブサイトのURLを投稿。最後に「お騒がせしており申し訳御座いません」という文言を記したのです。炎上から3時間以内に 投稿したのですが、この投稿で疑いが晴れるとともに、多くの人がその対応を好意的に捉えてくれたようでネットでも話題になりました。

社員満足度を重視した経営に切り替える

 社長に就任したのは30歳の時です。同族経営の場合、社長がまだ次の代には任せられないと考えて事業承継がうまく進まないケースが多いのですが、父は65歳になったら経営の一線を退くと明言しており、その通りに実行しました。社長になって最初に行ったのが、会社のミッションを作ることでした。『「あなた」を笑顔にする』というミッシ ョンを掲げたのですが、「あなた」というのは、社員・お客様・社員の家族・取引先、チロルチョコに関わる全ての人を指して います。そこで、まず社員を笑顔にしなければならないと考え、社内で満足度調査を行いました。ですがこの結果は厳しい ものでした。満足度は低く、アンケートには不満も多く書かれていたのです。私が入社してから改善を重ねてきたつもりでし たので、大きなショックを受けました。しかし、嘆いてばかりはいられません。社員満足度を重視するES(EmployeeSatisfaction)経営に力を入れ、プロジェクトチームを作って福利厚生の充実や労働環境の改善、人事評価制度や 賃金制度の改定に取り組みました。また、日報の代わりに仕事で気付いたことやアイデア、プライベートの何気ない出来事を書いて部署ごとのメーリスに送ってもらう「夜メール」という試みを続けています。毎日50通ほどのメールを確認するのですが、社内 で起きていることを広く把握できますし、他部署への感謝のメールなどを共有することで、コミュニケーションが円滑に進んでいます。現在はそうした試みの効果が表れ、社員満足度は当初より大きく高まっています。

話題となった社長交代を知らせる斬新な全面広告

創業時から製造している
「チロルチョコ<ミルクヌガー>」
定番商品、季節限定など年間約6億個生産している

SNSやイベントを通してお客さまとの絆を深める

 もう1つ、力を入れているのがマーケティングです。チロルチョコはロングセラー商品ですが、お客さまとのコミュニケーションが希薄だったのです。そこで3年前にマーケティング室を立ち上げ、お客さまとの絆をより深めるファンベースマーケティングを開始しました。SNSでの発信から始まり、プレゼントキャンペーンなども実施。昨年は秋葉原で「チロルフェス2023」というイベントを開催し、1000人を超えるお客さまにご来場いただきました。
 今後の目標は、アジア市場への展開を本格化したいと考えています。アジアではまだコンビニが普及していない地域も多く、市場の伸び代があります。また日本のチョコレートは高級品とされているので、手軽に買えるチロルチョコのニーズは大きいと考えています。現在は暑い地域向けに溶けにくいチョコレートの開発をしています。


ダンスサークルで培ったバランス感覚

 父が社長を務めていた頃の当社は開発特化型のメーカーでした。新商品を次々に送り出して会社を引っ張るスタイルです。しかし、それにより製造・販売に負荷がかかり、欠品が発生することも多かったのです。そのため、私は計画生産・計画販売を徹底し、欠品をなくしつつ、利益体質に改善する方向に切り替えました。父は周りをぐいぐい引っ張るカリスマ型の経営者でしたが、私は対話を重視するバランス型の経営者だと言われます。その背景には、大学時代にダンスサークルで副会長を務めた経験があります。会長と200人近いメンバーの間に立ち、意見をまとめつつモチベーションを高め、ダンスの公演を成功させた経験で、俯瞰的な視点が養われたように思います。振り返ると20代の時はがむしゃらに働いてきました。役員になってからは、寝ている時以外、ほぼ経営のことを考えています。ワークライフバランス的に正しいかわかりませんが、私はそうすることで社会人としての基礎を築けたと感じています。若い時にしか学べないことは多いですし、社会では頑張った分しか見返りが得られないものです。これから社会に出る学生の皆さんには、ぜひ貴重な20 代のうち に全力で仕事に取り組んでほしいですね。
文/ WAVE 写真/木内和美

松尾 裕二さん

松尾裕二(まつお ゆうじ)
福岡県生まれ。2009年立教大学経済学部経済学科卒業。卒業後、コンサルティング会社に入社して経験を積む。2011年チロルチョコ株式会社に入社。販売・開発・製造の部長を経て、2017年に取締役社長に就任。2018年より現職。


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