1. ホーム
  2. 会報
  3. Alumni Special Interview
  4. 調教師 深山 雅史さんインタビュー

Alumni Special Interview 

調教師 深山 雅史さん(平13物)

競馬の主役は、馬。その能力を引き出し最高の舞台で輝かせることが使命です。

調教師 深山 雅史さん
新型コロナウイルス感染症対策で厩舎に入れないため、エントランスにある馬の像と撮影しました


理学部を卒業し、調教師として活躍中の深山雅史さん。厩舎を開業されてからちょうど4年目となる今年3月、JRA日本中央競馬会の美浦トレーニング・センターでお話を伺いました。競馬の世界に入ったきっかけ、調教師の仕事について、馬への想い。紡ぎ出される言葉には、ホースマンとしての覚悟と情熱が宿っていました。

あの迫力、あの疾走感 競馬という世界の虜に

競馬に初めて出会ったのは大学生のときです。当時の僕はお世辞にも勉強熱心とは言い難い学生で、レスリング部の練習に明け暮れる毎日。そこに競馬というもう1つ好きなことが加わって、好きが高じて馬の研究というか、いろいろと調べるようになったんです。一頭一頭の個性や特徴を知るだけで楽しかったですし、何より、馬が走っているときのあの迫力、あの疾走感。それは本当に感動的で、知れば知るほど、「競馬に近いところで仕事をしたい」という思いが強くなっていきました。それで大学を卒業後、オーストラリアにあるトレインテックという競馬学校に入ったんです。
オーストラリアでは1年3カ月生活し、馬学や基本的な馬の扱い方、騎乗などを学びました。日本でも乗馬クラブで馬に乗った経験はありましたが、乗馬クラブの馬は人懐こくておとなしい馬が多いんです。対して競馬学校の馬は、元は競走馬として活躍していた馬たち。決しておとなしくはなく、さらにトラックを走らせるのでスピードも出ますし、最初に乗ったときは何度も何度も落とされて怖い思いをしました。それでも少しずつ経験を積んで何とか基礎を身に付け、帰国後は北海道の「ノーザンファーム」という、競走馬の生産・育成・調教を行う牧場で1年8カ月ほど働かせていただきました。その後、JRAの競馬学校で6カ月間学んで、卒業した翌年から美浦(みほ)トレーニング・センターの伊藤正徳厩舎に入って働き始めたので、もう15年以上ここにいることになりますね。


8度目の挑戦で合格師から引き継ぎ厩舎開業

競馬に関わる仕事を志した当初は、厩舎で競走馬の世話をする厩務員を目指していました。ただ、親は会社員ですし、馬とは縁もゆかりもない環境だったので、どなたか競馬関係の方に一度相談したいと思ってつてをたどっていったところ、幸運にも、ミスター・ダービーと呼ばれる橋口弘次郎調教師にお話を伺う機会を得まして、「大学を卒業するなら調教師を目指したほうがいい」とアドバイスをいただいたんです。それで、いずれは調教師になるという思いを抱きながら厩舎で働いて、2019年度の新規調教師免許試験に合格しました。合格率10パーセント未満という狭き門で、僕は8度目の挑戦での合格でした。それとほぼ同時期に伊藤先生が定年を迎えられ、その厩舎を引き継ぐ形で開業しました。現在は厩務員、調教厩務員、調教助手、合わせて12人のスタッフが働いています。

調教師 深山 雅史さん


厩舎全体を統括しながら競馬をマネジメント

厩舎には20頭の馬がいますが、調教師の主な仕事は馬を育成・訓練し、レースに出走させることです。そのために一頭一頭の状態や生活環境を細かく管理しながら、それぞれに見合ったトレーニング法を考え、スタッフに指示を出し、馬のコンディションを整えていきます。朝起きたらまず馬房に行って、馬を観察しながら異常がないかをチェックするのが日課です。夏は午前5時から、春と秋は午前6時から、冬は午前7時から調教が始まるので、ここでは馬も人も朝が早いですよ。
ほかにも、牧場で休養させている馬の様子を見に行ったり、出走計画を立てたり、セリ市に出かけて有望馬を見つけたりと、経営者として厩舎全体を統括しながら競馬をマネジメントする役割もあります。馬主さんや牧場関係者、騎手との連携も大切ですし、スタッフとのコミュニケーションも非常に重要です。自分の思いがうまく伝わらないこともまだまだありますが、そこは焦らず、強いず、スタッフと一緒に良い厩舎づくりをしていければと思っています。何といっても競馬の主役は馬ですから、全員のチームワークでその馬が本来持っている能力を引き出し、最高の舞台で輝かせること。これに尽きます。

馬は一頭一頭違うから調教に正解はない

こうしてお話ししていると、自分は四六時中、馬のことを考えているんだなと改めて気づかされますね。それが生き物の命を預かるということでしょうし、馬主さんやスタッフに対する責任でもあります。馬と関わるようになってからずいぶん経ちますが、常に馬をよく見て、考えながら接することの大切さを痛感する毎日です。
厩務員時代、重賞にも出られるような馬が調教中に骨折してしまい、その能力を活かせなかったという経験が僕にはあります。あのときの悔しさは今でも忘れません。だからどれほど馬について考えても、考え過ぎということはないと思っていますし、考えないでやっていたら、たとえ何十年続けても良い結果は出せません。それはスタッフもみんな同じで、日々意識を持って接しているからこそ、ちょっとした馬の変化も見逃さないんです。競走馬の調教に正解はありません。馬ごとに体つきも性格も能力もその日のコンディションも全て異なるので、一頭一頭に合わせて進めていくことが必要です。馬も生き物ですから、あれこれ求め過ぎるとストレスを感じて「もう嫌だ」と癇癪(かんしゃく)やパニックを起こすこともあります。こちらの要望を理解させるまで忍耐強く待っていなくてはいけない場面も日常茶飯事です。そうして苦労した末に良い競馬ができたとき、「これで正解だったのかな」と嬉しくなります。


レスリングで培った体力も仕事の支えの一つ

調教には体力も必要ですが、その点は大学のレスリング部で培った体力が僕を支えてくれています。当時、マットの上で試合時間の5分間、どこも力を抜かずに動き続けるのは本当に苦しくて。日々練習を重ねていても、集中力を切らさず試合をコントロールするのは至難の業でした。けれど、そのぶん達成感も大きくて、練習はきつかったですが楽しかったです。大島での合宿も懐かしい思い出ですし、アットホームな雰囲気も好きでした。部の仲間たちと会いたい気持ちはあるのですが、平日が休みの僕はみんなとなかなか予定が合わなくて。その休みも牧場を回ったり、北海道の牧場まで足を伸ばすこともあるので、丸一日ゆっくりできることはあまりありません。まだまだ馬と向き合う日々が続きそうです。


馬の良さを活かすことにこれからも全身全霊で

2022年の3月で厩舎開業から4年目を迎えました。1年目、2年目、3年目と時間を経るごとに成績が上がってきているので、今後も着実にステップアップして、結果を出していくことが一番の目標です。もちろん重賞も視野に入れています。そうして実績を積んで、「深山厩舎で働きたい」と言われるようになったら嬉しいですね。
一方で、勝敗に関わらず馬主さんに喜んでいただける、一緒に楽しんでいただける状態を作ることも大事だと思っています。そのためにも良い馬を育て、その馬の良さを最大限活かすことにこれからも全身全霊で取り組んでいきたい。「よくここまで育ててくれたね」、「一生懸命やってくれてありがとう」という馬主さんからの言葉は、何よりの励みになりますから。
文/水元真紀 写真/中西祐介

調教師 深山 雅史さん
深山 雅史(ふかやま まさし)
1977年、東京都生まれ。立教高等学校から立教大学理学部物理学科に進学。卒業後、オーストラリアへ渡り、ゴールドコーストにある競馬学校「トレインテック2000」で学ぶ。2004年JRA競馬学校厩務員課程入学。2005年より美浦トレーニング・センターの伊藤正徳厩舎で厩務員、調教厩務員、調教助手を務める。2019年度新規調教師免許試験に合格し、同年深山雅史厩舎を開業。


Page Top