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Alumni Special Interview

オリンピックに縁のある立教関係者を紹介

新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、1年延期となった東京2020オリンピック・パラリンピック。困難な状況の中でも、アスリート、大会を支える人々はすでに前を向いています。水泳競技責任者を務める安部喜方日本水泳連盟副会長(昭50経)と、JOC理事でシンクロナイズドスイミング(現:アーティスティックスイミング)ソウル五輪銅メダリストの小谷実可子さん(立教大学兼任講師)が、2021年開催に向けた現在の心境、現役時代や五輪の思い出を語り合いました。
※このインタビューは7月初旬に行われました。

―1年延長をプラスに捉える

安部  東京2020オリンピック・パラリンピックの水泳競技責任者として、6年前から会場となる東京アクアティクスセンターの建設に携わり、関係団体との調整を重ねてきました。1年延期は残念ですが、準備期間が延びたとも言えます。選手も我々運営側も、この1年を大切にすることで、より良い大会が実現できると考えています。
小谷  私はアンバサダーとして招致から関わってきました。もちろん予定通り開催できることが理想でしたが、オリンピックムーブメントが来年まで延長したとも言えるので、安部副会長がおっしゃるように捉え方次第だと思います。さらに言えば、順調に準備が進んでいた日本だからこそ中止にならずに済んだという見方もできます。 とはいえ、苦しい練習を重ねて五輪に照準を合わせてきた選手の気持ちも痛いほど分かります。でも、天候などやむを得ない事情で予定通り試合が行われないケースは、比較的よくあること。それをマイナスに捉えず、いかにチャンスと考えられるかが勝負だと思います。
安部  そうですね、日本だけでなく世界中が同じ状況なので、選手はポジティブに前を向いてほしいと思います。ただ、1年後にピークを合わせるには、今からスケジュールを組み直す必要があります。水泳については、まだ閉鎖中のプールが多く、大会も全て延期となりました。水中と陸上のトレーニングは別物なので、一日でも早く通常の練習を再開できるよう願っています。

安部喜方日本水泳連盟副会長

安部喜方日本水泳連盟副会長(昭50経)


―運営側、支える側として何ができるか
小谷  特にアーティスティックスイミングは、1日8~10時間ほど水中にいるのが当たり前ですし、チーム種目なので、プールで一緒に練習できないダメージは大きいです。でも、「オンラインのトレーニングで新たな発見があった」という声もあり、こんな状況だからこそ得られたものもあると思います。2021年の五輪はきっと世界で語り継がれる大会になると思うので、後輩には「特別な大会に参加できることを誇りに思って」と声をかけています。

小谷実可子さん
JOC理事でシンクロナイズドスイミング
(現:アーティスティックスイミング)
ソウル五輪銅メダリストの小谷実可子さん(立教大学兼任講師))


安部  組織委員会では、3つの方針が新たに示されました。一つ目は、コロナ対策に関わる安心・安全。二つ目は、費用の節減。三つ目が簡素化、シンプルな大会にするということです。具体的に協議を進めている最中ですが、「アスリートファースト」という原則は変わらないので、原点に立ちか戻り、スポーツの尊さを追求する大会になるでしょう。閉会後、アスリートに「いい大会だった」と感じてもらえる五輪を目指し、気持ちを新たに取り組んでいます。
小谷  簡素化する中で、どこで補えるかというと人の温かさや笑顔、対応力ではないでしょうか。私自身、さまざまな立場で五輪に参加してきて、心に残っているのはやはり「人」なんです。選手村の副村長を務める予定なので、日本ならではのおもてなしでサポートしていきたいです。


―今も鮮やかに思い出される五輪の舞台

小谷  私はソウルとバルセロナに出場しましたが、同じ五輪でも正反対の体験をしました。ソロ・デュエットで銅メダルを獲ったソウルは、「世界の誰にも負けない練習をした」と胸を張って言えるほど全力を尽くしました。メダル獲得はこの上ない喜びでしたが、あれだけやったのだから当然、オリンピックとはいえ想定内だったな、という思いもありました。
逆に、バルセロナは同じ努力をしたにもかかわらず補欠で、水に入ることさえできなかった。なぜだろうと考えたとき、どこかでソウルの時ほど「自信がある」と言い切れなかった自分に気付いたのです。それをオリンピックの神様は見逃さないのだと。でも、そのおかげで五輪の価値を改めて感じ、後輩のためにサポートしたいという思いが生まれ現在の活動につながっています。
安部  現役時代のご活躍はよく拝見していました。私が五輪に関わったのは、バルセロナの後、アトランタの国内選考会が最初です。アテネには審判として行きましたが、北島康介選手の100m・200m平泳ぎの金メダルはやはり思い出深いですね。また、同じアテネの男子4×100mメドレーリレーで、日本が初のメダルを獲得したことも印象に残っています。ロシアとタッチの差でしたが、審判として会場にいたので、緊張感も、喜びもひとしおでした。
ちなみに、審判は割とカメラに映るんです。そこで家族とサインを決めて、自分が映っているなと思ったら頭に手を上げることにしました。実際、それがちゃんとテレビで放映されたのです(笑)。

小谷さん安部さん



―水泳を通した出会いと縁

安部  私は立教中学からずっと水泳部で、大学では部長を務めました。現在も続く地域の方々に向けた水泳教室は、私が在学中に始まったもの。立教小学校や監督の水泳クラブでコーチをしたり、学生時代から指導もしていましたね。 また、小谷さんも所属されていた東京シンクロクラブの方々が、合宿に来られたことがありました。日本代表の強化も手掛けられた金子正子先生がコーチをされていた時代で、新座の合宿所で一緒に過ごしたんです。
小谷  そうだったのですね。東京シンクロはホームプールがなく、昔からさまざまなところにお世話になったと先輩方から聞いていたので、親近感を覚えます。
安部  卒業後、恩師の勧めで日本水泳連盟に入りました。並行して立教水泳部のコーチを務め、現在は総監督という立場になりましたが、まさかこれほど長く水泳に携わるとは思っていませんでした。学生時代は、いわゆるエンジョイスイマーでしたから。だからこそ、学生の練習を見ていると「そろそろ手を抜くな」と分かるのですが(笑)。
小谷  気持ちも分かりますよね(笑)。副会長とは、これまでアーティスティックスイミングの大会運営などでご一緒してきましたが、いかに会場を盛り上げるかを共に試行錯誤する中で、多くのことを学ばせていただきました。
安部  引退後も現場に関わってくださるのはありがたいです。私は以前から、単に競技をするだけでなく、観客の方々に楽しんでいただくことを大切にしてきましたが、小谷さんも同じ考えですよね。現在、スポーツ界全体にスポーツビジネスとしての側面が強く求められていますが、小谷さんと一緒にやってきたことが当たり前になってきたように思います。
小谷  かっこつけて言えば、戦友というか、改革派とでも言うのでしょうか(笑)。初めて見る人がいかに楽しめるか、また観たいと思うかがスポーツを育てると思うので、変えるべきところは変えていきたい。それを後押ししてくださっていることに感謝しています。

学生



―立教のスポーツ教育のいま

小谷  コミュニティ福祉学部の沼澤秀雄学部長と主人が親しくさせていただいている縁で、2015年から全学共通科目「スポーツスタディ(ウォーター・エクササイズ)」でアーティスティックスイミングの授業を担当しています。最初はあまり興味を持っていなかった学生でも、授業を通して一曲仕上げる頃には、「全員で一つのものをつくる喜びを味わえた」「終わるのが寂しい」と言ってくれて。そこが競技の魅力でもあるので、学生の皆さんに感じてもらえるのは嬉しいです。
安部  水泳部の部員にも履修を勧めています。ある年は、学期末の発表会で小谷さんがカルメンを披露されると聞いて、これは見逃せないと足を運びましたよ。
小谷  あの時はソロで泳ぎましたね。授業をきっかけにマーメイドカップ(日本学生選手権水泳競技大会)やスイムショーに参加した学生がいたり、新たな芽が育っているのも頼もしいです。それにしても、池袋のポール・ラッシュ・アスレティックセンターの室内温水プールは本当に素晴らしいですね。
安部  パラリンピアンの強化拠点施設に指定されていて、そこで練習していた選手がリオで結果を出したこともあり、高く評価されています。また、新座のセントポールズ・アクアティック・センター(室内温水プール)は企画段階から関わりましたが、地域に開かれたプールとして、あるいは学びの実践の場として、他大学のモデルになっていますね。 立教は、東京オリンピック・パラリンピックに向けた取り組みの着手が非常に早かったと思います。ボランティアなどを通して学生の皆さんに多くを学んでほしいですし、我々もあと1年、より良い大会の実現に向けて準備に全力を注いでいきたいと思います。

松浦先輩



―プロフィール―

安部喜方氏(日本水泳連盟副会長/昭50経)


1953年1月23日東京都生まれ。日本水泳連盟副会長、立教大学水泳部総監督、立教大学体育会OB・OGクラブ副会長、株式会社花門フラワーゲート専務取締役。1975年経済学部卒業。立教中学校から大学まで水泳部に所属。2004年アテネ五輪競泳競技の審判ほか、数多くの国際大会で審判として活躍。2020年東京オリンピック・パラリンピックの水泳競技責任者。現在、上記のほか、(公財)日本オリンピック委員会マーケティング委員を務める。

―小谷実可子氏(日本オリンピック委員会理事/兼任講師)

1966年8月30日東京都生まれ。1988年のソウル・オリンピックにシンクロナイズドスイミング(現名称:アーティスティックスイミング)の代表として出場し、ソロ・デュエットとも銅メダルを獲得。現役引退後は、五輪・教育関連の要職を歴任。東京2020オリンピック・パラリンピック招致アンバサダーも務めた。2015年度より本学全学共通科目のスポーツ実習科目を担当し、学生たちにアーティスティックスイミングを教えている。


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